学生講義用途での活用事例

久留米大学医学部病理学講座 主任教授 矢野 博久 先生

※インタビュー当時(2023年8月)のご状況であり、現状とは異なる場合がございます

授業運営の効率化と教育の質向上・リスク軽減に寄与

久留米大学様では、3年生向けに実施された病理学実習でPidPortをご採用いただきました。本インタビューでは、実習終了後に実施された先生・学生向けのアンケート結果を参照いただきながら、具体的にどのようにPidPortをご活用されたか、詳しくお話を聞かせていただきました。

導入前の課題

  • 顕微鏡を使用した従来の授業では、準備・運営にかかる負担や機器不具合時の対応に課題を感じていた。
  • 学生の待ち時間が発生していたり、良質な標本を均等な状態で見せることができず、病変が違って見えてしまうものもあり、説明がばらけてしまうことも多々あった。

導入後の効果

  • 運営の手間や機器トラブルの対応が不要になり、授業の準備や運営が驚くほどスムーズになった。
  • 学生が同じ切片を同時に閲覧できるようになったことで説明しやすい環境が整い、本質的な説明に多くの時間を割くことができるようになった。
<アンケート概要>
・調査名:PidPortを用いた学習に関するアンケート
・対象1:病理学実習で指導に当たった先生方20名
・対象2:病理学実習を受講した学生80名
・調査時期:2023年8月

今年度の病理学実習ではPidPortをご活用いただきました。先生方に回答いただいたアンケートでは、「授業の準備」(※1)「運営のしやすさ」(※2)において、顕微鏡と比較した場合にWSIを用いた授業のほうが高い評価を得てしまいたが、実際にはどのような変化が見られたのでしょうか。

顕微鏡を使用した従来の授業では、準備や運営にかかる負担や機器不具合の対応に課題を感じていました。まず、顕微鏡を使用するためには学生に対して一筆、書類の記入を求める手続きが必要でした。こちらは顕微鏡の利用中に損傷が生じた場合の補償などに関する書類なのですが、書面の用意や回収には手間がかかります。また、顕微鏡の準備作業も、棚から取り出してから電源の接続、動作確認まで複数のステップが必要となります。加えて毎年3~4名程度は機器の不具合が発生しますので、その度に専門業者を呼ばなくてはならず、これらの対応には多くの手間がかかっていました。
PidPortの導入後は、こうした運営の手間や機器トラブルの対応が不要になり、授業の準備や運営が驚くほどスムーズになりました。当初はデジタルデバイスを持たない学生が一定数いることも想定していましたが、実際には全員がPCやiPad、スマートフォンなどいずれかの端末を所有していましたので、WSIを閲覧できない学生はいませんでした。学生たちはデジタル機器の操作に慣れていますので、個々の端末から問題なくPidPortにログインをすることができ、操作方法についてもほとんど説明する必要がありませんでした。

アンケートでは、「病変の説明のしやすさ」(※3)においても、多くの先生方からWSIが顕微鏡に比べて説明しやすいという評価をいただきました。
具体的にどのような点に利点を感じられたのでしょうか。

ピント合わせや病変の特定までにかかるテクニカルな支援が不要となったことや、同じ切片を同時に閲覧できるようになったことで説明しやすい環境が整ったのではないかと感じています。 
顕微鏡を用いた実習の場合は予習ができませんので、授業中にどれだけ内容を理解できるかが重要となります。しかし、実際には教師の説明に集中できずに顕微鏡の操作に意識が向いてしまう学生も多く見られます。早い段階で拡大してしまうために病変を見つけるまでに時間がかかる学生がいたり、全く別のものを見ている学生がいたりするので、各テーブルを一つ一つ回って顕微鏡を覗いて支援しなければならないこともあります。
一方、PidPortではすぐにピントがあった状態でバーチャルスライドが確認でき、弱拡大から病変に迫っていくことができます。これにより病変特定までにかかっていた支援は不要になり、本質的な説明に多くの時間を割くことができるようになりました。

また、学生が120名ともなると、顕微鏡や標本は何名かで1セットしか配布ができません。学生たちは順番に見回していくことになりますので、待ち時間が発生してしまいます。特に、剖検症例は古いものを使うため状態の維持をすることが難しく、良質な標本を均等な状態で見せることはできません。そのため、病変が違って見えてしまうものもあり、説明がばらけてしまうことも多々あります。
PidPortであれば全員が同じバーチャルスライドの病変を観察できますから、ばらつきは生じません。特に、私の担当した授業ではアノテーション機能が役立ちました。当機能ではバーチャルスライド上に任意の画像やコメントを挿入することができるため、指摘したい病変に対して矢印などを入れておくことによって、限られた時間の中でも非常に効率よく説明することができました。また、グループワークの場面では、学生同士がPCやタブレットを見せながら意見を交換し合うことで視点の違いに気づき、より活発な議論に発展させることにもつながりました。
このように、効率の良い授業進行を実現しながら講義の内容を濃くすることが可能になり、「講義時間当たりの純粋な学習時間の拡大」につなげることができた点は大きな成果と言えるでしょう。

学生向けのアンケート結果によれば、「授業の理解度」においても、WSIが顕微鏡に比べて理解しやすいという声が約90%でしたが、学生の授業の様子について変化はありましたか。

日常的に用いているデジタル端末を通じて、瞬時に鮮明な画像が確認でき、難しいというイメージを持つことなく親しみながら学習を進めることができたこと、好きな時にアクセスでき、予習・復習ができるため、学習環境が整ったということが大きな違いとしてあると思います。
また、複数の免疫染色による画像比較も、PidPortのおかげで簡単に実施することができました。顕微鏡の場合には画像は1枚しか見ることができませんので、複数の免疫染色による画像を比較する場合には、場所を記憶してそこにまたピントを合わせる必要があります。これがなかなか難しいんですね。特にリンパ腫を扱う場合は複数の免疫染色を見ますので、3枚4枚同時に見られたほうが効率的です。
こうした親しみやすさや操作性の良さがポジティブな評価に繋がっているのだと思います。念の為、顕微鏡でも見られるように準備はしていたのですが、今回顕微鏡を覗いた学生は一人もいませんでした。これには我々教員も驚きましたね。



教育用途以外に「カンファレンスや遠隔診断でPidPortをご利用してみたい」というご意見を多数いただきました。実際に、お役立ていただけそうなシーンを含めて今後の展望をお聞かせください。

カンファレンスや遠隔診断については、移動に時間がかかるために実施が難しいという課題がありますので、PidPortを活用することにより遠隔同士でもこれらの実施を可能にしたいという声は少なからずあるのではないでしょうか。
例えば病院同士の距離が遠い場合には、院外の先生方と実際に集まってカンファレンスを実施を行うことは簡単ではありません。事前に撮影しておいた代表的な病変の写真を供覧するという方法もありますが、臨床の先生方にとっては、PidPortのようにWSIの全体画面をお見せしながら病変に迫っていったほうが分かりやすいはずです。遠隔診断についても遠い場合にはプレパラートを送ってもらうこともありますが、数時間かけて出張もしています。移動に時間かかってしまうのはやはり大変なので、PidPortを用いて遠隔診断ができるとよいですね。

時代の流れとして、今後は病理診断の現場でもバーチャルスライドを用いた業務が増えてくると思っています。また、国家試験についても同様で、今後はバーチャルスライドの活用により自分で病変を見つけるといった本質的な精度が試される問題が出てきてもおかしくはありません。時代がデジタル化していく中で、その流れに合わせて教育の在り方をより実地に近いものに変化させて行くことが重要なのではないかと感じています。


最後までお読みいただきありがとうございました。

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